加藤 由紀VIEW PROFILE →
人手不足の現場を救うのは誰か,,建設ロボットが変える日本の工事現場
深刻な担い手不足に直面する日本の建設業界。溶接、コンクリート仕上げ、鉄筋の組み立てといった重労働を担うロボットの導入が、いま急速に進んでいる。人を置き換えるためではなく、そもそも働き手がいないという切実な現実が、この静かな革命を後押ししている。
日本のあちこちで、ビルや道路、橋が今日も建設されている。しかし、その現場では静かに、しかし深刻な危機が進行している。工事を担う人手が、決定的に足りなくなりつつあるのだ。この差し迫った現実を背景に、いま建設ロボットの導入が、かつてない勢いで加速している。
問題の根は、日本社会全体を覆う人口減少と高齢化にある。労働人口は今後数十年でさらに大きく縮小すると予測され、国全体で数百万人規模の人手不足に陥るとの見方もある。とりわけ建設業は、きつい、汚い、危険という印象もあって若者離れが進み、担い手不足が際立っている。
そこに追い打ちをかけたのが、いわゆる二〇二四年問題である。働き方改革の一環として残業時間の規制が強化された結果、これまで長時間労働で辛うじて成り立っていた現場が、限られた人員では回らなくなった。人手を増やせず、労働時間も延ばせないという二重の縛りが、業界を一気に追い詰めたのである。
働き手が消えていく建設業

この苦境に対する切り札として期待されているのが、ロボットによる自動化だ。大手ゼネコンを中心に、これまで人の手に頼ってきた重労働をロボットに任せる試みが本格化している。それは決して未来の話ではなく、実際の工事現場で少しずつ現実のものとなりつつある。
具体的な用途は多岐にわたる。鉄骨を溶接する自動溶接ロボット、コンクリートの表面をならす仕上げ機械、人工知能を使って荷を運ぶクレーン、そして最も労働集約的とされる鉄筋の組み立てを助けるロボットなど、現場のさまざまな工程で機械が人を支え始めている。
置き換えではなく、穴を埋める
ここで重要なのは、この動きの根底にある考え方である。海外ではしばしばロボットが人の仕事を奪うと語られるが、日本の状況はむしろ逆だ。奪うべき仕事に就く人が、そもそもいなくなりつつある。ロボットは人を追い出すためではなく、空いてしまった穴を埋めるために導入されているのである。
この違いは社会的な受け止め方にも表れている。人手不足が深刻であるがゆえに、労働者側もロボットの導入に比較的前向きだ。危険で体力を消耗する作業を機械が肩代わりしてくれるなら、より安全で付加価値の高い仕事に人が集中できる、という前向きな期待が広がっている。
生産性の向上という側面も見逃せない。少ない人数でより多くの工事をこなせるようになれば、建設コストの上昇を抑え、社会インフラの維持や更新を滞りなく進めることができる。老朽化するインフラの補修が急務となる日本にとって、これは極めて切実な課題への回答でもある。
現場ならではの高い壁
もっとも、建設現場のロボット化は工場の自動化ほど簡単ではない。工場が整然と管理された環境であるのに対し、工事現場は天候に左右され、地形も刻々と変化し、一つとして同じものがない。こうした予測困難で雑然とした環境で確実に動くロボットを作ることは、技術的に非常に難しい。
コストの問題も依然として大きい。高価なロボットを導入できるのは体力のある大手企業が中心で、現場の多くを支える中小の建設会社にとっては、なお手の届きにくい存在である。技術を広く普及させ、業界全体を底上げしていくことが、今後の大きな課題となるだろう。
それでも、人手不足という逃れられない現実がある以上、建設現場の自動化は避けて通れない道である。人とロボットが役割を分担し、危険な作業は機械に、判断や仕上げは人に委ねる。そうした新しい現場のかたちを世界に先駆けて築けるかどうかに、日本のものづくりの底力が問われている。





